アイデアは世界からのプレゼント。だから人にも贈りたい

Blabo!編集部
2014.06.04

kawajiring

Blabo!マガジンの新しい企画「アイデアの達人」シリーズ。第2回となる今回は、銀河ライターの河尻亨一さんにご登場いただきます。

プロフィール
河尻亨一さん
銀河ライター/東北芸工大客員教授。原稿書いたり、取材したり、企画したり、イベントやったり、教えたり。色んなところをウロウロしてます。歳をとるにつれヤンキー化していくのが悩ましいです。

Q.1 「これが自分だ」と思えるお仕事(企画やプロジェクト)をご紹介ください。

いま取り組んでることが“一番自分だ!”と思いたいですね。その意味では最近は、「10 over 9」という読書サークルに力を入れています。

http://10over9-readingclub.jp/

子どもの頃から本が大好きだったのですが、ここ数年、ほんと本を読まなくなったなーと実感しており、「そしたら、みんなで読めば楽しいんじゃね?」みたいな軽いノリからスタートしました。世の中にはいい本がたくさんあるけど、そうじゃない本もたくさんある。こういった本の部活を通じて、「自分がいま読むべきものに出会おう」ということですね。

やってみたところ思いがけず反響があり、参加者も増えて行き、なにより来た方々が「楽しい」と言ってくださるので、「こういう場が求められていたんだな」と改めて実感しています。

コンセプトとしては、みんなで本を読むリアルな「読書部活」でありつつ、この活動自体が「本屋さん(本を売る仕組み)」であり、新しいライフスタイルの提案につながる「メディア」でもあることの三位一体を狙っています。「紙、電子を問わず本の売上げを伸ばし、日本の文化力を高める」という途方もない目標も掲げていますが、まずは楽しめることが何より大事だと思ってます。

これに限らず、私の仕事はすべて、言葉と行いの一致(もしくはそれに近い線)を意識してます。言葉にすると難しげですが、ようは「言ったことや面白そうと思ったことはとりあえずやってみよう」というシンプルなこと。そして、自分がいいと思うものを、「なぜいいのか?」をできるだけ明らかにしつつ、人におすすめしていきたいです。その意味では、大きな意味での“広告”です。そのときに言葉(メディア表現)だけでは、それなりの影響力があろうとも限界があるのでは? と感じます。

直接会って話すことが大事だと思うので、生イベントに力を入れることになります。メディア(情報空間)とリアル(生活空間)の合体を身の丈のサイズでやりたいのかもしれません。それで言うとこんなこともあります。海外の郷土菓子を研究(収集)したくて、1年半かけて仏パリからベトナム・ホーチミンまでをチャリンコで回っていたというとんでもない若者がいるのですが、その彼が帰国して今度本を出すというので、私は彼のトークショーをセッティングしたり、それと同時に本の紹介記事をネットに書いたりしています。

http://kyodogashi-event-kyoto.tumblr.com/

それも発想的には同じ。お店のまねごとやったり、セミナーの司会や講師業などやってることがバラバラで「自分」がないようにも思えるのですが、根本はそのへんです。そういうのが自分です。

Q.2 よいアイデアは、いつ、どこで、どんなふうに閃きますか?

追いつめられたとき。もうどうしようもないとき。

編集者だからというのもあるかもしれませんが、他人がやってなさそうな斬新なアイデアとか世の中を沸かそうみたいなことはあまり狙っておらず、すでにある何かと何かがバチッと出会ったときに、それが解決を導く一本の線に化けるのが理想。猫と一緒で、獲物が向こうから来るまではジッとしてます。他力本願的なんでしょうか。私の場合、アイデアは自分で考えるというより、他者や世界から有り難くいただく施しものに近いです。

Q.3 アイデア脳を鍛えるために、日頃こころがけていることはなんでしょう?

あんまりないですね。色んな場所に行ったり、色んな人と会うとよいのかも?あと、うまいものを自分でこしらえて食う、でしょうか?心身ともに健康であることは大事だと思います。酒飲んで話すと一瞬いいアイデアが出たような気にもなりますが、翌日になるとだいたいダメですね。でも、人とバカ話できる機会はその後の“化学反応”のきっかけになるので大事です。

Q.4 この本は手元に置いておきたい。そんな一冊をご紹介ください。

『獅子座の女 シャネル』(文化出版局)

ポール・モランというフランスの有名作家がまとめたココ・シャネルへのインタビュー。実際に語られた言葉だけでなく、作家の創作した言葉もたぶんに加わっているそうです。しかし、そのことで逆にわざとらしくなく、「これこそ本物のシャネルなのでは?」と思わせるのがスゴい。仕事が一番キツかった20代後半、寝る前に毎晩読んでいました。

これを読むと、「(女性が)着飾るためでなく、生きて働くための服」を作ろう、という現代にも通じるビッグアイデアがどのようにして生まれたのか? といったことがわかります。クリエイティブとビジネスに対する彼女の異常なまでの厳格さに心打たれ、その生き様のストイックさに感銘し、異性関係でのドSっぷりとユルさに微苦笑します。

もうひとつ読んでわかるのは、イノベーションは男性の専売特許ではないということ。でも、男が読んでも勇気出ます。

『シャネルー人生を語る』というタイトルで文庫にもなってますが、そっちは翻訳がいまいちアレな気もして、秦早菜子さんという方が訳した格調高くて読み飽きない文化出版局バージョンをおすすめします。

Q.5 ズバリひと言でお願いします。あなたにとってアイデアとは?

人に贈るもの。そのことで自分が生きるための糧も生まれる。