<高橋智隆さんインタビュー>第1回:究極のエゴイズムの先に、市場はある。

経済産業省
2016.02.09

経済産業省とBlabo!が主催する「みんなのロボットプロジェクト」。日本で開発されているさまざまなロボットと、私たちの生活の接点を見つけるプロジェクトです。一見、遠い存在であり、馴染みのないロボットですが、それを見事に私たちの普段の暮らしと重ねてみせた先駆者がいます。ロボットクリエイター・高橋智隆さん。「週刊ロビ」をはじめ、親しみやすく、人に愛されるロボットを多数製作してきた氏の開発の原点には、誰よりも強い「好き」という気持ちがありました。Blabo!代表の坂田が、その秘密を探ります。

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プロフィール

高橋 智隆さん
1975年生まれ。株式会社ロボ・ガレージ代表取締役、東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問。

坂田:今回、取材にあたって準備をする中で、たまたま10年前の記事を拝見しました。お顔もほとんど変わっていないので最初は10年前と気づかなかったんですが(笑)。独創性を重視していた当時と比べて、最近の記事では、ユーザーの気持ちや感性についての意識が強くなってきているように感じたのですが、いかがですか?

高橋さん:そうですね、基本はあまり変わっていないとは思います。ただ、この10年で人の感性の奥深さ、難しさを知ったということはあるかもしれません。掘れば掘るほど新しい課題が見つかる。だからこそ、そこに興味を持つようになったという側面はありますね。

坂田:高橋さんの関心が広がったと同時に、この10年でマーケティングの考え方が大きく変わってきているという背景もあるかもしれません。

高橋さん:はい。これからの時代、これまでのようにユーザーにアンケートをとってマーケティングをして商品を開発する、という手法はありえないと思います。ジョブズが言っていたように、「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分は何がほしいのかわからない」。

坂田:待っていても、お伺いを立てても、答えは出ない。

高橋さん:そうですね、日本の企業だと、ユーザーや取引先の顔色を伺って「何をしましょう?」という姿勢が強いですが、それはイノベーティブでない。ロボットの分野でもそういう体質に陥りやすい危険はあると思います。そうすると、いつまで経っても市場が拓けていかない。それよりも好きなことをとことんやったほうがいい。

坂田:自分の好きを突き詰めていくと、ユーザーがほしいものとのズレも出てくるリスクがあると思うのですが、その点についてはどうお考えですか?

高橋さん:偏っていても、一人がこうだと思ったものを進めたほうがまともなものができる。どちらかというと、誰かの言うことを聞き続けた結果、誰もほしくないものが出来続けているということのほうが多いですよね。頭のいい人が集まって、議論を重ねた結果が、誰が見ても間違っているものになっているという…。

坂田:オリンピック関連のニュースが記憶に新しいですね。

高橋さん:まさにそうですね。それは誰が悪いという話ではない。みんながよかれと思って妥協しあった結果がそうなる、それが世界中で起きてしまっている。

坂田:もしかすると、日本人は利他の精神が強いからこそ、周りに気を遣ってしまって失敗するのかもしれません。実は利己的に突っ走ってしまった方が、新しい世界が開けてくるという。

高橋さん:その可能性はあります。

坂田:インターネットが良い例かもしれません。いわゆるオープンソースの議論ですが、誰かがもととなるプログラムを作って公開すると、それを見た他のプログラマが手を加えていく。Rubyを開発されたまつもとゆきひろさんもおっしゃっているのですが、個々のプログラマは世の中のため、人のためになんて思っていないですよね。ただ、目の前に不便や不具合があるから、それを純粋に楽しんで直したり拡張したりしているうちに、トータルとしてよりよいプログラムになっていく。

高橋さん:そうですね。自分が好きなものを、自分の感性で判断してつくっていくということが大事だと思います。そうすれば、少なくとも自分がほしいものはできる。その上で、数人かもしれないし、何億人かもしれないですが、自分と同じ感性を持っている人がそれを受け入れてくれる。とりあえず、全くとんちんかんなものにはならないんです。

坂田:なるほど。究極的なエゴが結果的にいいものづくりに繋がるんですね。

高橋さん:そのとおりです。最初から人に喜んでもらうことを目的にすると、レバレッジが効かなくて、結局社会に与えられる自分の還元はすごく小さなものになると思います。社会全体としては損失ですよね。自分の利益のために何かしら力を発揮して、それが結果的に広がったら、それだけ大きな還元ができると思います。

坂田:そう考えたときに、高橋さんにとってユーザーはどういう存在なんでしょうか? やっぱりユーザーが喜んでくれたら嬉しいのか、それとも結果的にそうなっていればいいという話なのか…。

高橋さん:結果的にそうなっていればいいですね。自分が好きでつくったものに、人の生活や価値観を、引き寄せることができたら面白い。それは、まさにジョブズがやったことでもある。彼が勝手に思い描いたビジョンにみんなが賛同したから、それに合わせて自分たちの生活を変えた結果、今のような暮らしになっているんだと思っています。

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<第2回に続きます>